家族が認知症になってしまった場合、トイレのトラブルに困ることが多いと思います。
ここでは、認知症の排尿障害、失禁などトイレのトラブルの対応方法を解説していきます。
目次
認知症と排尿障害
認知症とは、脳や身体の疾患を原因として、記憶・診断力などの障害が起こり、普通の社会生活が送れなくなった状態です。
認知症の原因となる疾患は多くのものがありますが、とくに多いのが脳血管性とアルツハイマーと、その混合型です。いずれも脳の障害により起こります。したがって、知的能力の低下のみならず、身体的障害を伴っている場合もあります。
知的能力の低下といっても、長年繰り返してきた排尿・排泄行為を完全に忘れることはさほどなく、部分的に忘れていたり、一つひとつの行為の順番を間違えたりと、起こりうることはさまざまです。
認知症と排尿障害
認知症の程度 | 状態 | 対策 |
認知症があるが身体の障害はない | 尿意を感じてトイレに行くが、がまんできる時間配分ができていないため途中で漏らす。 | 動作に注意したり記録などによりパターンをつかみ、早めに誘導する。 |
卜イレの場所の認識ができない。 |
同上 | |
①卜イレではない場所を卜イレと思い排泄をする。 ②卜イレの標示を見ても、卜イレという認識ができずに探し回っているあいだに漏れる。 ③トイレの構造に記憶がなぐ使い方がわからずにパニックに陥り漏らす。 |
①動作に注意し、サインをつかみ誘導する。卜イレの標示を本人がわかりやすいものにする。 ②同上 ②照明が暗くて場所の認識ができない場合もあるので。照明の工夫をする。 ③しばらく行動をともにし、できる動作でも声かけをしながら手を添えて一緒に行う。 |
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尿意・便意を感じないか、訴えられない(羞恥心が残っていたり、訴える方法がわからない)。 | 本人のサインを確認し何気なく誘導。尿便意を感じないような神経因性膀胱の可能性も考えられるので自残尿のチェックも行う。 | |
卜イレに行っても下着を下ろさなければならないことを忘れて、排泄する。 | 行動をともに行い、下着の上げ下ろしなど、できないことを手伝う。 | |
後始末を忘れる。 | 同上 | |
衣服を整えることを忘れて出てくる。 | 同上 | |
いま排泄したことを忘れてすぐに卜イレに行こうとする。 | 誰が問題に思っているのかにより、対策は異なる。本人は何度も卜イレに行っている認識はないので、トイレに行くことに苦痛は感じていない、むしろ周囲が卜イレが使えなかったり、水道料金の増加などが問題。本人が気をまぎらわせることを提供し、間隔をあける、注意したいのは残尿・残便があるための卜イレの場合もある(排出障害)ので十分チェックしたうえでかかわる。 | |
認知症と視力障害がある | 場所の確認ができず探しまわるあいだに漏らす。あるいは行かない。 | 照明の工夫・誘導 |
設備の利用方法がわからなくて的がずれたり、衣類をうまく下げられずに濡らす。ペーパーの位置がわからない。 | 照明の工夫。できない部分の介助。衣類の工夫。声かけ。 | |
後始末のあと、衣類がきれいに整わない。 | 同上 | |
認知症と四肢麻痺がある | 動作ができないために漏れる。 | 用具を使えるようになるまでは必ず誰かが一緒にかかわる。 |
福祉用具の使い方がわからないため卜イレに行けずに漏れる。 | かかわれない時間は、パッドやおむつ・収尿器などの用具を有効に使用する。 | |
どの場合にも起こりうること | ①漏らしたことを認識できない。 ②濡れていることを認識できないか、認識しても取り替えることができない。 ③着替えたあと汚れた衣類をタンスやコタツのなかに入れ、入れたことを忘れたり、水洗卜イレに流して詰まらせたりする。 ④トイレットペーパーの芯を流すこともある |
羞恥心による場合も多いので、本人が傷つかないようなきっかけをつくり衣類を交換する。本人の卜イレへのサインを見抜き、早めの誘導を試みる。 |
認知症の尿トラブル対策
まずは「排泄ができなくなった」と大げさにとらえるのではなく、本人および周囲の状況を理解し、どのような場面で排泄の問題が起きるのか、そのケースを探り、対策を講じるようにします。
その排泄障害について、誰が問題であると感じているのか。本人か、あるいは周囲の家族やスタッフか、などをチェックします。それによって対応も違ってきます。
本人の場合
①本人ができていないことを問題と認識している
②身体的な違和感を苦痛に感じている
③スキントラブルがある
④恥ずかしいと感じている
⑤その他
家族・介護スタッフの場合
①仕事量が増加した
②疲労や疲労感がある
③挫折感がある
④生活上、衛生を保つことができにくい
通常であれば、本人に問診しますが、認知症の場合、情報を得ることが困難であったり、確実ではないこともあるので、周囲からの情報収集が重要です。排泄に関することにとどまらず、日常生活の状態把握からも原因となっていることを抽出します。
トイレのトラブルを観察する
本人の発言や訴えとは裏腹な行動が起こることもあるので、前後の行動について観察を行わなければなりません。
施設や病院などで、多くの対象者がある場合は、見落としたり気づかなかったりしますが、根気よく一人ひとりに的を絞り観察を続けます。
また、情報交換を行いながら観察を続けなければならないので、記録をつける習慣を心がけると誰もが把握しやすいでしょう。
トイレのトラブルを記録する
多職種や、一般の家族やボランテイアがかかわる場合もあるので、共通理解できる言葉を選んで、できるだけこまかく記録します。
さらに可能であれば、排尿日誌や排便日誌を利用して記録します。排尿量や排便量を測定することが困難でも、排泄した時間や状態などを記入することで、想定できることもあります。
認知症で失禁が始まったときの家族の対応方法
夜中に寝室のドアが開いて、びっくりして飛び起きたら、認知症の親がそこで排尿していた。
それも病気のなせるわざです。トイレがどこだかわからなくなったので、さまよい(見当識障害といいます)、ドアがあったので、ここだと思ってしていることなのです。
「どうしてこんなことするの」と突きつけても無駄ですし、怯えたり不快感を残すだけ。
夜の間の尿失禁なら、トイレまでの道筋を明るくしておいたり、あるいはトイレの電気をつけつぱなしにしてドアを開けておく、といったことで乗り切れる場合もあります。
ある施設では、トイレに大きなちょうちんを下げて目印にしているということです。
失禁が起きたとき、打ちのめされ「もうダメ|と絶望する場合もあります。その気持ちをわかってあげましよう。できれば「大丈夫」と言葉かけして背中をさすり静かに着替えさせたいものです。
濡れた衣服を着替えない場合の対応
失禁で汚れた衣服を取り替えようとすると、抵抗することがあります。これは、濡れたことを認めたくない(自尊心が傷つくので)、着替えの混乱を避けたい(着替えは大変な作業なので)、つまりは自分を守るための抵抗です。
対応としては、「濡れて不潔でしょう」など失敗につながる言葉は避けて、一呼吸おいて、
「散歩に行くから、着替えて」
などと、違う場面にもっていくとうまくいくこともあります。
排泄感覚が衰えている場合の対応
よく観察してみると、排泄したいといぅ感覚があいまいになっているのがわかる場合があります。
そういうときにはー時間とか2時間おきに、「トイレに行ってみましょう」と誘導して、どれぐらいの間隔でトイレへ行けば失敗を防げるのかを観察します。
適切な間隔がわかれば、その時間ごとにトイレ誘導します。リハビリパンツなど違和感が少ない、失禁対策下着もあります。
部屋のすみや玄関に放尿する場合の対応
部屋のすみや玄関がトイレだと思いこんでいるなら、便器がわりのバケツなどを置いて「ここにしてください」と頼んで様子をみましょう。
いつもそこなら、折をみて「トイレはこちらになります」と、ほんとうのトイレに誘導すると、覚え直すことがあります。また、その場所に家具などをおいて様子を変え、本人がとまどうところをキャッチして、トイレに誘導します。まずこの2つのどちらかを試みてみましょう。
介護がつらくなった場合の対応
おもらしが始まると、臭気もあるので、介護者は耐えがたい思いに襲われます。
「あらぁ、またなの」「だめねえ」
と、ついつい言ってしまいますし、がっかりした顔つきにもなります。そして「もう何もわからなくなった」と考えがちです。
しかし本人は、自分の排泄の失敗にとまどい、いたたまれない思いで打ちのめされています。その思いを、うまく表現できないだけなのです。
ですから怒ったり、悲しんだりする介護者の否定的な対応は、ここでも便いじりなどの行動障害を加速させる働きしかしません。
介護する側としては、ここが一つの山です。病気の進行を受け入れ、かつ本人を責めず悲しまず、
「大丈夫、だれでも失敗するんだからね」
と微笑んで、支える側にまわり、汚物を処理するのです。排泄のケアでは、介護者の穏やかな顔が最高の介護となります。
ろう便がある場合の対応
汚物をいじる(ろう便)行為は、失敗をとりつくろい、自分でなんとかあと始末をしようとしてする、はなはだ迷惑な意味をなさない行為(仮性作業といいます)です。
対策には定期的なトイレ誘導が必要です。そして、いつもお尻まわりをすっきりさせ、異物がまとわりつく感覚をもたせないようにして防ぎます。
認知症で失禁が始まったらすること
運動不足やメリハリのない生活も、排泄機能を衰えさせます。そんなときにはデイサービスを利用して、様子を見まるのも良いでしょう。
園芸や工作などなにか熱中するものが見つかると、感覚が戻ることかあります。熱中するものを見つけてあげましょう。
着脱しやすい服にし、定期的にトイレへ誘導
おもらし、いわゆる失禁が起こるのには、頻尿や下痢を起こすほかの病気がからんでいることもあるので、まずは診察を受け、病気があれば治療しましょう。
そうでない場合は、認知症が進行し、神経系の異常で尿意や便意の感じられ方が変わっている、トイレの場所がわからなくなっている、衣服の脱ぎ着がむずかしいなど、どれかの理由で間に合わないのです。
まず、トイレの位置をわかりやすくしましょう。慣れている言葉で「トイレ」「便所」など大きく書いて貼り出す、いつもトアを開けておく、夜間にはトイレまでの廊下に電気をつけておく、などの工夫で、ひと目でトイレの位置がわかるようにします。
また、衣服を脱ぎ着しやすいものに変えて、定期的にトイレに誘導します。
認知症の尿トラブルを理解する
必ずしも認知症による機能性失禁ばかりではなく、その他のタイプの失禁が合併していることもあるので、年齢や性別、既往歴からも排泄障害の可能性を考え、確実にそのタイプや原因を理解します。
原因がわかれば、その状況に誰がどのようにかかわるか、どのようなものをいつ使用するかなど検討し、実践に移します。必ずしも一度で成功することは少ないですが、繰り返すことで、成功率は高まります。
また、認知症があっても何度も繰り返すことで徐々に認識できてくることも多いものです。「認知症=できない」と思い込まず、根気よく続けることで、互いに喜びあえるときが訪れます。
認知症に関しては、「認知症=できない、わからない」ではなく、一人ひとりに人格があり、すべての行動に理由があるのです。また、まったく当事者も覚えられ ないのではなく、覚えるのにかなりの時間を要したり、間違って覚えてしまったりすることもあります。まずは認知症を理解することが大切ではないでしょうか。