医薬品(薬剤)による排尿トラブルには、
①蓄尿を促進する薬剤(蓄尿障害、頻尿や失禁を引き起こす)と、
②排尿を促進する薬剤(排尿障害、残尿を引き起こす)
に大きく分類できます。
これらの薬剤が下部尿路の機能に影響を与え、尿路の障害を引き起こします。薬理学的に膀胱・尿道または前立腺に分布する自律神経系に作用する医薬品が主ですが、平滑筋直接作用によるものや機序が不明なものもあります。
目次
蓄尿障害(頻尿・尿失禁)を引き起こす医薬品
膀胱に存在するコリン受容体を刺激することで膀胱排尿筋の収縮を促進します。また膀胱はβ2-受容体が多く存在し、アドレナリン遮断薬はアドレナリン受容体に拮抗作用し、排尿筋を収縮させます。
症状として頻尿・尿失禁が出現します。
中枢神経に作用して頻尿や失禁を引き起こす医薬品
中枢神経に作用して頻尿や失禁を引き起こす医薬品としては以下のとおりです。
向精神薬:フェノチアジン系のクロルプロマジン(コントミン)、チオリダジン(メレリル)、
プチロフェタン系のハロベリトール(セレネース)
抗不安薬:ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)
筋弛緩薬:塩酸トルペリゾン(ムスカルム)
膀胱に作用して頻尿や失禁を引き起こす医薬品
膀胱に作用して頻尿や失禁を引き起こす医薬品としては、以下のものが挙げられます。
副交感神経刺激薬:コリン類似薬剤である塩化アセチルコリン(オビソート)、塩化べタネコール(べサコリン)抗コリンエステラーゼ:臭化ネオスチグミン(ワゴスチグミン)、臭化ジスチグミン(ウブレチド)
抗不整脈薬:β-アドレナリン遮断薬であるプロプラノール(インデラール)、アテネロール(テノーミン)、抗コリン類似作用をもつジソピラミド(リスモダン)
利尿薬:尿量が増えて尿失禁を起こすフロセミド(ラシックス)、スピロノラクトン(アルダクトン)
膀胱出ロ部に作用して頻尿・失禁を招く医薬品
膀胱出ロ部に作用して頻尿・失禁を招く医薬品としては以下の通りです。
降圧薬:アドレナリン遮断薬塩酸プラゾシン(ミニプレス)、塩酸ブナゾシン(デタントール)、メシル酸ドキサゾジン(カルデナリン)
筋弛緩薬:ダントロレン(ダントリウム)、クロルメザゾン(トランコパール)
排尿障害(残尿など)を招く医薬品
抗コリン薬はコリン受容体を遮断し膀胱排尿筋を抑制させることで、またα-アドレナリン刺激薬はα-アドレナリン受容体を刺激すると膀腕出口部から後部尿道平滑筋を収縮させ、尿道内圧が上昇するために排尿障害をきたします。
β-ドレナリン遮断薬も前薬同様に作用します。また中枢神経系に抑制的に働く薬剤も排尿障害の原因となります。
中枢神経に作用して排尿障害を引き起こす医薬品
中枢神経に作用する医薬品は、排尿反射の抑制をきたし残尿を生じます。
オピオイド性鎮痛薬、中枢神経系抑制薬、抗精神病薬が挙げられます。
オピオイド性鎮痛薬抗精神病薬:モルヒネ、コデイン、アヘンアルカロイド
中枢神経系抑制薬:バルピゾール酸誘導体、メタカロン、ベンゾジアセビン誘導体
抗精神病薬:メジャー・トランキライザー(抗コリン作用が主):クロルプロマジン(コントマン)、ハロペリドール(セレネース)
マイナー・トランキライザー(中枢神経系に二次的に抑制作用がある):エスタゾラム(ユーロジン)、クロチアゼム(リーゼ)、クロルジアゼポキシド(コントール)、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)
抗うつ薬:クロラゼプ酸(メンドン)、クロキサゾラム(セパゾン)
脊髄に作用する医薬品
脊髄レベルに作用する医薬品としては多シナプス抑制薬が挙げられます。
多シナプス抑制薬:バクロフェン(リオレサール)
膀胱に作用する医薬品【抗コリン作用】
抗コリン作用として膀胱に作用する医薬品は、頻尿・尿失禁治療薬、鎮痙薬、消化性潰瘍治療薬、抗不整脈薬、抗アレルギー薬、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、抗パーキンソン病薬、抗めまい、メニエール病薬が挙げられます。
以下に具体的な薬品名を紹介します。
頻尿・尿失禁治療薬:塩酸プロピベリン(パップフォー)、オキシブチニン(ポラキス)
鎮痙薬:臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)、プロパンテリン(プロバンサイン)、チキジウム(チアトン)
消化性潰瘍治療薬:アルデオッア(メサロン、コランチル)
抗不整脈薬:ジソピラミド(リスモダン)、シベンゾリン(シべノール)、ピルメノール(ピメノール)
抗アレルギー薬:クロルフェニラジン(ボララミン)、ジフェンヒトドラミン(レスタミン)、プロメタジン(ヒべルナ)(ピレチア)
抗精神病薬:クロチアピン(デリトン)、スルトプリド(バルネチール)
抗不安薬:ジアゼパム(セルシン)、トフイソパム(グランダキシン)
抗うつ薬(三環系):イミブラミン(トフラニール)、アミトリプチリン(トリプタノール)
抗パーキンソン病薬:トリヘキシフェニジル(アーテン)、ビぺリデン(アキネトン)
抗めまい、メニエール病薬:塩酸メクリジン(ボナミン)、塩酸ジフェニドール(セファドール)
膀胱に作用する医薬品【平滑筋直接弛緩作用】
平滑筋直接弛緩作用として膀胱に作用する医薬品は、気管支拡張薬(β2刺激薬)、感冒薬、H2受容体遮断薬が挙げられます。
気管支拡張薬(β2刺激薬):エピチオスタノール(テオドール)、塩酸クレンブテロール(スピロベント)
感冒薬:ダン・リッチ
H2受容体遮断薬:シメチジン(タガメット)
膀胱出ロ部に作用する医薬品
膀胱出ロ部に作用して排尿障害を引き起こす医薬品は、交感神経α-アドレナリン受容体治療薬、β-アドレナリン遮断薬、抗パーキンソン薬、抗肥満薬があります。
交感神経α-アドレナリン受容体治療薬:塩酸エフェドリン(エフェドリン)、塩酸ミトドリン(メトリジン)、アミトリプチリン(トリプタノール)
β-アドレナリン遮断薬:アテノロール(テノーミン)、プロブラノロール(インデラル)
抗パーキンソン薬:ドパストン(レボドパ)、ドロキシドパ(ドプス)
抗肥満薬:マジンドール(サノレックス)
作用部位不明だが膀胱に作用する医薬品
膀胱に作用するが作用部位不明の薬剤として、循環改善薬、女性ホルモン薬があります。
循環改善薬:ペントキシリフェリン(トレンタール)
女性ホルモン薬:エストロゲン(プレマリン)、エストリオール(エストリール、
高脂血症薬:エイコサペント酸エチル(エバテール)d抗結核薬:イソニアジド
作用部位不明だが頻尿・尿失禁を起こす医薬品
作用部位不明の薬剤は以下の通りです。
高Ca血症治療薬:エルカトニン(エルントニン)
インターフェロン(α、β)
抗ウイルス薬:ビダラビン(アラセナ-A)
プロスタグランジン:オルノプロスチル(ロノック)、ミソプロストール(サイトテック)