頻尿や尿漏れ治療の方法の一つとして挙げられるのが「漢方薬の服用」です。
ここでは尿トラブルの改善に使われる漢方薬を解説します。漢方薬を服用しない場合の方法も最下部にご紹介しています。
目次
頻尿・尿もれ治療
頻尿、尿失禁はそれだけで死に至る病気ではないこともあって、 以前はとくに治療の必要な病気だとは考えられていませんでした。しかし、とくに欧米で、20年ほど前から積極的に治療していこうという考えが出てきました。
そのひとつの理由は、尿失禁によって、 最近の言葉でいうとQOL (生活の質)がとても低下するからです。外出できなかったり、不便だったり不衛生だったり、さまざまな困ったことが起こります。
しかも、ある調査では頻尿と尿意切迫感に悩む患者さんは米国では3400万人、日本でも810 万人いるといわれています。40才以上の約12.4%、糖尿病と同じくらい悩む人の多い病気なのです。
女性に多い尿失禁(尿漏れ)は、2つのタイプに分けられます。尿を止めておく骨盤底筋群が弱くなって、尿が少しずつもれてしまう腹圧性尿失禁と、膀胱が異常に収縮し、尿がもれてしまうタイプの切迫性尿失禁です。
切迫性の尿失禁というのは、膀胱が働きすぎてしまうことが原因になっていることがほとんどで、そのためなかにはもらしてしまうことはなくても、常にそのことが心配で出かけられなかったり、生活に不便をきたすことがあります。
西洋医学の薬には副作用などのデメリットも
それぞれのタイプによって、尿失禁の治療は異なってきますが、その基本はまず治療法を決めることです。症状がどれくらい重いのか、その症状のせいでどれくらい生活上の不便を感じているかです。
手術をすればリスクもありますが、症状がなくなる可能性も高いです。薬を飲んで治せれば、気楽だけれど効果が出るまでに時間がかかる傾向があるでしょう。
薬のなかでも西洋医学の薬は切迫性尿失禁の人の尿の回数をー日15回から6回に減らすかもしれませんが、そのかわり便秘やロが渴くなどのさまざまな副作用のリスクがあります。
一般的に薬というと西洋の薬を指しますが、薬を飲む際には副作用について十分注意して服用する必要があるのです。
いっぽう、漢方の薬では尿の回数は1日15回から10回までにしか減らないけれど、副作用の報告は少ないです。どちらの治療法にするかは、メリットとデメリットを考えたうえで本人が選択できるのがべストです。
尿のトラブルには漢方薬も効果あり
生活の質が低下する病気では、漢方の治療が効果を発揮することがしばしばあります。
というのも、漢方の考え方では臓器のある一部分だけを治すというより、その人の全身の状態 を改善し、困っている状態をなくすというのが基本だからです。
尿失禁にはいくつかの原因がありますが、この原因を漢方的に解釈するとひとつは老化やもともとの素因として骨盤底筋や靭帯が弱くなっていること。いわゆる腹圧性尿失禁の原因はここにあると考えられます。
体が元気を失っている状態ですから、漢方的には気虚と呼ばれ、それを補うような処方を使います。
また、脳や脊髄の血のめぐりの悪化が原因となる場合もあります。これは加齢で起こることが多く、漢方的には腎虚と呼ばれ、これを補うような処方を用います。
最後に、膀胱の粘膜に異常が起きている場合もあります。これは臨床的にもある程度確認されるのですが、粘膜下に水が滞っている状態で漢方的には水滞といい、その悪い水をとり除くような処方を用います。
頻尿、尿漏れに使用される漢方薬6つ
漢方は西洋医学の薬と異なり、その人それぞれの処方を用いるのが基本です。症状が似ていても、その人ごとに処方は違うこともあります。
日本では古くからの漢方の伝統が尊重されていて、薬局でも漢方薬を簡単に買うことができます。 頻尿、尿失禁に効くと話題の薬も漢方処方にもとづく一般薬としてありますし、そのほかの処方も、いわゆるエキス製剤を薬局で購人することができます。
漢方治療は生薬を飲むだけで体への負担は軽く、漢方薬の副作用の報告も少ないですが、処方によって飲む期間や費用が異なるので注意が必要です。
漢方薬①猪著湯合四物湯(ちょれいとうごうしもっとう)
猪著湯合四物湯は地黄、芍薬、川芎、沢瀉、猪苓、当帰、茯苓、阿膠、滑石からなる猪苓湯と四物湯の合方。尿道の殺菌消毒作用があり、感染症を防ぐ。下腹部に脱力感があり疲れやすい人に。
漢方薬②清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
清心蓮子飲は八味地黄丸を用いて胃が荒れるという人、だるい、疲れやすい人向けの処方。 蓮子、人参、甘草、黄耆、茯务、麦門冬、黄苓、地骨皮、車前子からなる。
漢方薬③加味逍遙散(かみしょうようさん)
加味逍遙散は疲れやすくイライラする人、気分が不安定になりやすい人向け。当帰、芍薬、白朮、茯苓、柴胡、牡丹皮、山梔子、甘草、薄荷生からなる。
漢方薬④八味地黄丸(はちみじおうがん)
八味地黄丸は腎虚の人に対する基本的な処方。地黄、 山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子の8種類の生薬からなり、体を元気づける効果がある。
漢方薬⑤六味丸(ろくみがん)
六味丸は八味地黄丸から桂皮と附子を除いた処方。 八味地黄丸を使用してほてる感覚のある 人に用いる。地黄、山菜、山薬、牡丹皮、 沢瀉、茯苓の6種の生薬で構成される。
漢方薬⑥牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
牛車腎気丸は八味地黄丸に牛膝、車前子を加えた処方。八味地黄丸をとると冷えるという人が用いる。地黄、山茱萸、山薬、牛膝、沢瀉、茯苓、牡丹皮、車前子、桂皮、附子からなる。
以上のものが尿のトラブルに良く使用される漢方薬です。
自分にあった漢方薬を選ぼう
これらは民間療法などを取り入れた治療というわけではなく、健康保険で認められた医科向けの薬剤です。
尿失禁治療に用いられる漢方薬としては、まず、猪茶湯合四物湯(ツムラ112)という薬があり ます。これは、猪爷湯という漢方薬と四物湯という漢方薬を合わせた薬です。
この薬は、中くらいの体格の人で、ロが渴きやすく、慢性膀胱炎や切迫性尿失禁などで症状が 長期間続いている場合に比較的よく効くといいます。
また、閉経後に切迫性尿失禁になった人に割と有効なようです。冷えを改善しやすい薬でもあります。
同じような症状で、胃腸が弱く痩せ型の人には、清心蓮子飲(ツムラ111)という薬が処方されます。
加味逍遙散(ツムラ24)という漢方薬もよく使われています。これもやはり切迫性の尿失禁のときに使われますが、猪茶湯合四物湯の場合とは違い、年齢層が少し若く、痩せ型で不安の強い 患者さんに用いられることが多いものです。
まだはっきりとした因果関係はわかっていませんが、切迫性尿失禁にはストレスなどの心理的な要素も絡んでいるようです。そうした場合、加味逍遙散が割と有効だといわれています。
他にも、八味地黄丸、六味丸、牛車腎気丸も頻繁に用いられます。
最近では女性外来があり、漢方治療にも積極的な医療機関がふえています。
頻尿、尿漏れ、尿失禁のような病気はその人の 「困っている状態」を改善するのが最大の目標です。だからこそ、 自分自身の納得いく方法で治療にとり組むことがたいせつなのです。
漢方薬が合わない体質の人は?
漢方薬はそれぞれの体質に合わせて服用するものです。
体質に合わない場合、効果がほとんど感じられないということも多いものです。
また、医薬品(西洋薬)よりも少ないとはいえ、漢方も副作用がゼロではありません。漢方が合わない方、薬を飲みたくない方には副作用のないサプリメントで改善するという方法もあります。
「漢方や医薬品を服用せずに尿トラブルを改善したという体験談」を以下のページでご紹介しています。こちらも参考にどうぞ。