抗コリン薬の効果、特徴、副作用とは【過活動膀胱による頻尿・尿漏れ・失禁の薬】

抗コリン薬

過活動膀胱における薬物療法の第一選択は、抗コリン薬です。

頻尿や失禁をまねく過活動膀胱では、膀胱の筋肉(排尿筋)の収縮増強や不随意収縮(自分の意志とは無関係に膀胱が収縮すること)による症状がでるため、薬物療法ではこの膀胱の筋肉(排尿筋)収縮の抑制が主体となります。

頻尿や尿漏れ、失禁に使われる「抗コリン薬」の効果

抗コリン薬の効果

膀胱の収縮メカニズムは、副交感神経より神経伝達物質であるアセチルコリンという物質が遊離され、このアセチルコリンが排尿筋の表面にあるムス力リンレセブタ一という受容体に結合したあと、排尿筋が収縮することになります。

すなわち、アセチルコリンが膀胱の筋肉の表面にある鍵穴に結合し、その結合により膀胱の筋肉内でさまざまな反応が起こり、最終的に膀胱が収縮するという効果があります。そのため、過活動勝腕をコントロ一ルするには、この一連の反応を緩和・遮断することが有効な治療となります。

抗コリン薬は、アセチルコリンがムス力リンレセプタ一(鍵穴)に結合するのを阻害します。これにより、排尿筋の収縮を抑え、不随意な膀胱の収縮をコントロールする結果、切迫性頻尿や尿失禁が治療できることとなります。

ムスカリンレセプター

アセチルコリンの受容体であるムス力リンレセプターは、全身の臓器にあります。

しかし、このムスカリンレセプターにもいくつか種類があり、臓器によって若干タイプに違いがあります。現在までにM1~M5の5種類のタイプが確認されています。

ムスカリンレセプターのうち、膀胱にはM2、M3があることが分かっており、なかでも膀胱の収縮には、M3の方が大きな役目を持っています。したがって過活動膀胱の治療においては、このM2、M3(特にM3)を遮断することが有用です。

また、膀胱の近くにある神経終末にはM1のレセプターがあり、アセチルコリンの遊離促進にはたらいていると考えられています。

漠然とムスカリンレセプターを遮断すると、膀ーのムスカリンレセプタ一だけでなく、ほかの臓器のムスカリンレセプターまでも遮断することになります。

この場合に、いわゆる副作用(有害事象)の症状が出現することとなります。

以前は、このようなムスカリンレセプターのタイプを選択し、遮断することは難しかったのですが、今日の薬学の進歩により、レセプターのタイプを認識し選択的に遮断できるようになってきました。

このため、膀胱に効果的に作用し、ほかの臟器への影響が少なくなり、副作用が抑えられるようになってきました。とはいえ、副作用のため、服薬の継続が難しく、投薬を中止せざるを得ない場合もあります。

抗コリン薬の副作用

抗コリン薬の副作用

抗コリン薬治療の副作用としては、ロの渴き、便秘、眠気などの症状がよくみられます。

これは、ムスカリンレセプター遮断が膀胱だけでなく、唾液腺、腸管、脳内のムスカリンレセプターにも反応し生じた症状です。

すなわち、唾液を分泌する唾液腺のムスカリンレセプターが遮断されると、唾液の分泌が低下し、ロの渴きや唇の乾燥を生じます。また、「アセチルコリン」ー「ムスカリンレセプター」の経路で起こる腸管の蠕動(ぜんどう)運動も、抗コリン薬により阻害され、腸管の動きが鈍くなり便秘となります。

このため、腸閉塞の既往がある、またはその可能性がある方は使用できません。

緑内障の患者さんでは、眼圧上昇により症状が悪化することがありますので、抗コリン薬使用にあたっては眼科医の指示を仰がなければなりません。さらに、脳内のムスカリンレセブターと反応した場合は、眠気や記憶力低下など、精神・神経系の障害が起こるといわれています。

しかし、すべての方にとって、このような症状が副作用として起こるわけではありません。杭コリン薬の服用を中止せざるを得ない場合から、なんら問題にならない場合まで、個人差があります。特に小児の場合は大人と比べて、このような副作用か起こることは少ないといわれています。

頻尿や尿漏れ、失禁の症状を引き起こす過活動膀胱は、生命を直接おびやかすような病態ではありませんが、生活の質(QOL)に大きく関わる疾患で、薬物療法は長期にわたる可能性が高くなります。

例えば風邪を引いた際に、風邪薬を数日服用すれば治る、といった病態ではありません。このようなことから、極力副作用の少ない薬物療法が望まれます。

主な抗コリン薬の一覧と特徴

一覧と特徴

現在、国内では6種類の抗コリン薬が使用可能ですが、その特徴を理解し使い分けを行うことにより、より効果的な治療が行えます。

抗コリン薬一覧

一般名(商品名)

剤形

服用量(1日)

服用回数(1日)

半減期

その他特徴

オキシブチニン(ポラキス)

錠剤

3〜9mg

3回

1時間

神経因性膀胱に使用される

プロピべリン(バップフォ一)

錠剤、細粒

10〜40mg

1回

25時間

ムスカリンレセプター遮断以外の作用もある(カルシウム拮抗作用)

トルテロジン(デトルシト一ル)

カプセル

4mg

1回

11時間

脳への影響が少ない

ソリフェナシン(べシケア)

錠剤

5mg,10mg

1回

40〜70時間

用量調整司能

イミダフェナシン(ステ一ブラ、ウリトス)

錠剤

0.1mg

2回

2.9時間

副作用が比較的少ない

オキシブチニン(ポラキス)の特徴

オキシブチニン(ポラキス)は膀胱のムスカリンレセプターであるM3を比較的選択的に遮断します。

オキシブチニンは血中濃度が最も速やかに上昇しますが、効力の低下も早く、半減期(薬を服用し、血中濃度が半分になるまでの時間で、効力の持続の指標の一つ)は約1時間ほどです。持続が短いことか5、1日3回に分け服用することが望まれます。脊髓損傷や二分脊椎による排尿障害(神経因性膀胱)などで頻用されています。

ソリフェナシン(べシケア)の特徴

ソリフェナシン(べシケア)は、抗コリン薬のなかではオキシブチニンと比較して、M3に対する選択性はやや弱いのですが、半減期が約50時間と最も長いのが特徴です。このため、1日1回の服用を行い、うっかり飲み忘れた場合でも効力が継続していることが利点です。症状などにより、1日服用量を5mg、10mgと調整することも可能です。

イミダフェナシン(ステ一ブラ、ウリトス)の特徴

イミダフェナシン(ステ一ブラ、ウリトス)は、オキシブチニンとソリフエナシンの中間のような抗コリン薬で、M3およびM1を遮断します。半減期は2.9時間と短いものの、膀胱からは緩徐に消失するため、1日2回の服用により、効果を示します。

プロピべリン(バップフォ一)、トルテロジン(デトルシト一ル)の特徴

一方、プロピべリン(バップフォ一)、トルテロジン(デトルシト一ル)は膀胱のムスカリンレセプターのうちM2,M3をほぼ同等に遮断し、M3への選択性は特異的ではありません。

さらにプロピベリンは、その代謝産物がカルシウム括抗作用という、顏筋収縮を和らげる作用を併せ持つ特徴があります。

トルテロジンは分子量が大きく脂溶性となりにくいため、脳脊髓関門を通過しにくく、中枢神経への作用軽減が期待されます。過活動膀肢患者は高齢者が多いことから、抗コリン薬の使用に際して、記銘カ低下や認知症への影響を考慮しなければならない場合も多く、このような症例には有効と考えられています。

過活動膀胱の治療の大部分は、抗コリン薬による薬物治療といえます。各抗コリン薬の特徴をもとに、過活動膀胱による頻尿や尿漏れ、失禁の症状や基礎疾患を考慮し、有効で安全な治療を受けることでQOLが向上するものと思われます。

過活動膀胱に対する抗コリン薬

抗コリン薬の服用で尿失禁

過活動膀胱とは「尿意切迫感を有し、通常は頻尿および夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともあれば伴わないこともある状態」とされています。

膿尿・尿潜血がなく膀胱炎や膀脱癌などの尿路疾患が疑えない場合、女性の過活動膀胱に対しては初診から抗コリン薬「イミダフェナシン(ウリトス、ステ一ブラ)、ソリフエナシン(ペシケア)、トルテロジン(デトルシト一ル)、プロピベリン(バップフォ一)など」を処方されることが多いです。

一方、男性の前立腺肥大症(膀胱出口閉塞)に伴う過活動膀胱に対して、抗コリン薬を服用すべきではありません。

抗コリン薬が膀胱排尿筋の収縮力を低下させ、排尿症状(尿勢低下、尿線途絶、腹圧排尿など)を悪化させる可能性があるからです。

高齢者は特に抗コリン薬に注意

膀胱出口閉塞がなくても、高齢男性・女性では過活動膀胱でありながら膀胱の収縮力が弱いことがあり、不用意に抗コリン薬を服用すると尿閉、溢流性尿失禁が生じる可能性があるので注意が必要です。

虚弱を思わせる高齢者が抗コリン薬を服用する際には、残尿があるかないかを見極めておくべきです。残尿が50ml以上あれば専門医に相談すべきでしょう。

抗コリン薬のその他の副作用として、口内乾燥、便秘、霧視があります。閉塞隅角緑内障の患者が服用すると眼圧が高くなり緑内障が悪化するので、緑内障のタイプが開放隅角か閉塞隅角のいずれであるか眼科医に相談する必要があります。

また、抗コリン薬は認知機能を悪化させる可能性がありますが、新しい抗コリン薬(デトルシトール、ペシケア、ウリトス、ステ一ブラ)ではその可能性は低いようです。

高齢者では副作用を避けるために、抗コリン薬は通常処方の半量程度から開始するのが適切です。また、投与後、残尿が増加していないか確認しましょう。

抗コリン薬の服用で尿失禁が悪化した例も

50代女性の事例です。

数年前から急に尿がしたくなる(尿意切迫感)と我慢ができず漏れてしまうという症状(切迫性尿失禁)があり、かかりつけ医師に相談したところ過活動膀胱との診断で、抗コリン薬のべシケアを処方されました。

2週ぐらい内服したらさらに漏れがひどくなリ泌尿器科を受診しました。腹部超音波検査で多量の尿を膀胱内に認めたため、抗コリン薬を中止し間欠自己導尿を開始しました。

過活動膀胱を和げる方法

過活動膀胱を和げる方法
過活動膀胱の症状を悪化させる要因として、多飲多尿、夜間多尿があります。水分摂取は、1日の尿量が体重(kg)x20〜25mLぐらいになるのが適当です。

必要以上に水分を摂取しても脳梗塞や心筋梗塞を予防できません。夕方30分くらいの散歩は、下肢の浮腫を軽減させ、睡眠を深くして夜間頻尿を抑えます。

尿意切迫感はかりそめの感覚です。ほかのことを考えながら、肛門を5〜10秒締めたり緩めたりするとやり過ごすことができます。強い尿意が去ったところでトイレに行けば、切迫性尿失禁を避けることができます。

過活動膀胱治療のポイント

  • 過活動膀胱を理解する(尿意切迫感はかりそめの感覚、尿意をやり過ごす・尿意をコントロ一ルすることが大事)
  • 適切な水分摂取を心がける(多飲多尿を避ける)
  • 夜間頻尿に対して、15:00以降の水分摂取(タ食後の果物も)は午前中に移す
  • カフェイン含有飲料水(コ一ヒ、お茶、紅茶、コーラ)の摂取を少なくする
  • 酸性食品(食物酢、柑橘類、炭酸飲料など)、刺激物の過剰な摂取を避ける
  • 便通を整える(便秘は過活動膀胱を悪化させたり、尿排出障害の原因になる)
  • 体重を減らす
  • 夕方に30〜60分程度散歩する
  • 膀胱訓練を行う
  • 骨盤底筋体操を行う(括約筋を締めると膀胱の不随意収縮が抑えられる)

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