高齢者の尿漏れ・失禁、頻尿の原因となる病気
過活動膀胱とは、「突然の我慢できない尿意(尿意切迫感)」によって慌ててトイレに駆け込まなければならなかったり、実際に尿が漏れてしまったりする状態をいいます。
随伴する症状として、何回もトイレに行ったり(頻尿、夜間頻尿)、そのために睡眠が障害されたりします。この尿意切迫感が最も重要な症状ですが、一般的には、飲水過多による多尿や夜間多尿、睡眠障害による頻尿などとの区別ができていないのか現状です。
特に高齢者では、昼間よりも夜間の尿量が増加するという特徴があり、夜間に2〜3回トイレに起きる方はたくさんいますが、それがすべて過活動膀胱というわけではありません。
また、高齢者は特に過剰の飲水指導がされていることも多く、過活動膀胱との判別を難しくしています。
最も重要なことは、その方の「生活の質(quality of life:QOL)が本当に障害されているかどうか」であり、単なる多尿、夜間多尿ではQOLが障害されていない方を多くみます。
過活動膀胱の治療自体は、高齢者ということで変わるわけではありません。しかし実際には、薬物療法の第一選択である抗コリン薬が無効である方が相当数おり、多尿、夜間多尿や睡眠障害が原因となっていることが多いようです。
また、高齢者の過活動膀胱治療上の特徴として、抗コリン薬の副作用が出やすく、特に男性では、残尿の増加が生じやすいため注意が必要です。
高齢者の尿トラブルを引き起こす病気①脳血管障害
発作直後の尿失禁は約70%に認められるが、数力月の経過で約20%まで低下します。
脳卒中発作後の排尿障害の要因はさまざま。排尿筋の過活動性が尿失禁の原因となりうりますが、それ以外に、精神機能の変化、失語、運動障害などが排尿機能障害の出現に大きく関与します。
リハビリテ—ションの進行やトイレの環境を整備することで、失禁の程度を改善させることができます。
高齢者の尿トラブルを引き起こす病気②パ一キンソン病
高齢者に多い中枢神経の変性疾患であり、パーキンソン病に起因する排尿機能障害は35〜70%に認められます。
刺激症状、閉塞症状が起こる可能性があります。排尿動態検査では排尿筋が過活動になって失禁、頻尿を引き起こすことがあります。
高齢者の尿トラブルを引き起こす病気③認知症
高齢者の認知症に伴う排尿障害は、失禁という形で表れることが多いです。
検査では、排尿筋の過活動がしばしば観察されます。いわゆる機能性尿失禁といわれるように、トイレの場所がわからない、尿意を伝えられない、トイレまでの距離が遠い、などが悪条件となって尿失禁をもたらすことが多いといわれています。
高齢者の尿トラブルを引き起こす病気④脊椎疾患
加齢に伴って脊椎変性、変形の頻度を増します。脊椎間狭窄は頸椎では排尿筋の過活動を、腰椎では過活動または低活動をもたらします。症状はしばしば間欠的(出たり出なかったり)です。
高齢者の尿トラブルを引き起こす病気⑤糖尿病
高齢者の糖尿病は、罹病期間が長期にわたっていることがしばしばで、神経合併症を伴うことも多いです。
糖尿病における膀胱機能障害は、膀胱知覚の障害が先行して、しだいに排尿筋の収縮力が障害されて、頻尿や失禁、尿もれが現れると報告されています。
高齢者の尿トラブルを引き起こす病気⑥感染症
例えば帯状疱疹などの感染症が尿排出障害に繋がることもあります。
加齢に従って、帯状疱疹の罹忠率は上昇します。
高齢者の頻尿・尿漏れの治療
尿意切迫感が強く、実際に切迫性尿失禁(尿漏れ)がある方には、高齢者の方でも抗コリン薬が有効です。
しかし、高齢者では上記のように副作用を考えて少量から投与を開始し、徐々に増量するようにするのが普通です。以下の処方で約1力月投与し、効果不十分であればそれぞれ倍量に増量してみます。
抗コリン薬の処方例(①〜③のいずれか)
①プロピベリン(バップフォ一)10mg/1日1回
②トルテロジン(デトルシト一ル) 2mg/1日1回
③ソリフェナシン(べシケア) 2.5mg/1日1回
高齢者の過活動膀胱と紛らわしい2つの症状
①多尿・夜間多尿
高齢者は若年者と比較して飲水過多のため、1日尿量自体が多くなっていることがあります。
排尿日誌をつけて判断してください。1日尿量が2,000mLくらいまでは問題ありませんが、それ以上の尿量が出ている人は飲水過多ですので、まずは飲水制限を行います。
そのほか、多尿を引き起こすものにアルコールやカフェインがあり、控える必要があります。
1回尿量が平均250mL以上ある人は膀胱機能には異常がありませんので抗コリン薬は無効です。
②睡眠障害
睡眠障害は、年齢を問わず夜間頻尿の原因となります。高齢者の睡眠障害には2つのパターンがあり、一つは若年者と同じ入眠障害です。
眠れないとトイレに行くという人は大変多いのですが、それは膀胱や前立腺の病気のためではなく、実際には不眠が原因となっています。
この場合には睡眠導入剤が大変有効ですが、高齢者では転倒による骨折などの合併症もあり、注意が必要です。
もうーつの睡眠障害は、高齢者に多い中途覚醒、早朝覚醒です。深夜3〜4時頃に目が覚めて、トイレに行った後に眠れなくなってしまうもので、朝方に何回もトイレに行く特徴があります。
原因は、過度のアルコールによる浅い睡眠、高齢者に多い就寝時間が早すぎることのどちらかです。いずれにしてもこの場合、薬剤は無効であり、生活リズムそのものを変えていく必要があります。
治療のまとめ
排尿症状が生活の質(QOL)に影響を与えているか
排尿回数が多いことがすべて悪いことだと思われている傾向があります。たとえ夜間に3〜4回トイレに行ったとしても、1回1回の排尿が十分量で気持ちよく出ていて、残尿感もなく睡眠にも影響を与えていないのであれば、治療の必要はありません。
すべてを薬剤に頼らない
高齢者の過活動膀胱や頻尿・夜間頻尿に影響を与えているものには、飲水過多、アルコールやカフェイン、早すぎる就寝や不眠などがあります。生活内容を変えたり飲水時間を変えたりするだけで、よくなる方もいます。まず、しっかりと原因をつかむことが大切です。
また、過活動膀胱治療に使われる抗コリン薬は、比較的副作用の強い薬剤です。副作用が出るようだったら、すぐに医師に相談するようにしましょう。高齢男性では、安全性の高いα1遮断薬という選択肢もあります。
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