子宮癌による尿漏れ、失禁
子宮癌は、膀胱浸潤を起こすところまで進行しない限り、ほとんど尿漏れや失禁などの排尿障害を伴いません。
もしも子宮癌のために血尿や排尿時の違和感などが現れることがあるとしても、その前に性器出血や腫瘍病巣の感染などがすでに明らかになっているはずです。
子宮癌では性器出血や血性帯下が起こることが多いですが、子宮頸癌もしくは子宮体癌で、出血でなく黄色調の多めの異常分泌を伴うことも偶にあるといいます。パッドに滲みた黄色い液体を尿漏れと見なしていたが、実は癌による異常な分泌物であったという話もあります。
尿漏れや失禁と生殖器系の汚れとは、素人目には簡単に区別がつかないことがあります。婦人科的に診察すれば、膣内に溜まった黄色の液体や経膣超音波の所見などにより、異常な分泌や腫瘍性疾患が診断できます。
子宮癌の手術後に起こる尿漏れや頻尿
子宮癌そのものが排尿機能に影響を与えていない場合でも、それを手術等で治療するとなると排尿機能にはしばしば神経学的な後遺症が残ります。
外科治療のなかで頸部円錐切除術と単純子宮摘除術は神経を損傷することのない手術方法で、拡大子宮摘除(準広汎切除)と広汎子宮全摘除術、また、後腹膜リンパ節郭清術は神経学的な変容を残す術式です。
これらの処置により膀胱にはさまざまな程度の機能低下が起こり、膀胱充満の感覚や蓄尿器の膀胱収縮抑制能、排尿反射の展開などが損なわれます。
単独で行われた放射線治療では、一般に外科治療よりも排尿面の後遺症は軽いですが、放射線膀胱炎が長く続き排尿筋の柔軟性が失われるため失禁や尿漏れ、頻尿が起こりやすくなります。
また、広汎子宮全摘の後に外照射を追加して治療すると、多くの場合に膀胱容量は大幅に縮小するため、手術による神経の損傷と合わさって排尿機能はかなり下がるため失禁や尿漏れ、頻尿が見られがちです。
子宮頸癌・体癌の手術
子宮頸癌Ib期以上や体癌Ⅱ期以上の進行癌の場合、手術による尿管や膀胱周囲の剥離の範囲が広くなり、骨盤神経を損傷する可能性が高くなります。骨盤神経に重度の損傷が起きると、排尿困難を主体とした排尿障害が起こります。
排尿障害の典型例は核・核下型神経因性膀胱と呼ばれるもので、尿意は骨盤神経の損傷により低下、あるいは消失していることが多いです。
膀胱内に多量の尿が貯まっても排尿筋の収縮は起こらず、そのため腹圧を加え尿の排出に努めますが、多量の残尿を生じます。
手術後当初は無緊張性膀胱とも呼ばれるように、膀胱は柔軟で、容量も大きく、数百mlにも及ぶことも多いです。しかし、多量の残尿のため、膀胱壁は常に緊満した状態となり、膀胱壁の過伸展から膀胱血流量は減少し(虚血)1毛細血管内腔の閉塞や自浄作用の低下から感染しやすい状態となります。
その結果、尿路感染の持続から膀胱壁の線維化を助長し、徐々に膀胱は柔軟性を欠き、低コンプライアンス(高緊張型)膀胱になったり、尿管膀胱移行部の破綻から膀胱尿管逆流症(VUR)を生じるようになります。
一方、尿道の機能に関してはさまざまですが、骨盤神経叢の損傷の結果、最大尿道閉鎖圧は低下します。
近年、悪性腫瘍に対する治療は根治性の向上のみならず、生活の質的向上(QOL)も広く問われるようになっています。とりわけ、術後の排尿状態は社会生活と強く関係し、QOLに大きく影響を与える因子です。
そのため、子宮癌手術では病期に応じて自律神経の温存が図られることが普通です。通常、骨盤内臓神経は温存し、個々の症例により骨盤神経叢や膀胱枝の切断、あるいは温存が行われます。
病院によっては子宮頸癌Ⅱ期でも骨盤神経叢や膀胱枝を温存する施設もあり、施設間でも若干治療方針は異なるといいます。
子宮癌治療後の尿トラブルとの付き合い方
子宮癌治療後の排尿障害については、婦人科もしくは泌尿器科で担当されています。
5〜10年にわたる癌の観察期間を終了した患者については、かかりつけ医のもとでα遮断薬やエストロゲン製剤などを継続して処方されることが多いです。
子宮癌手術後の排尿障害は、神経因性膀腕や膀胱壁の慢性炎症なので、泌尿器科など専門医との連携を取ることもあります。